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7.ヘルニアの手術治療について

1)ヘルニア手術治療のアウトライン

ヘルニアは座布団が破れて中身の綿が出ている状態ですから、この綿を抜いてやること(摘出)が手術の原理です。しかし強い不安定性(グラグラ状態)を伴っている場合は固定手術が必要な場合があります。

 

ヘルニアの摘出

ヘルニアの手術は通常腰椎後方から侵入し、後方筋組織、椎弓骨組織、硬膜外組織、神経組織を経由して椎間板に到達する経路で行われます。
最近開発されたPELD法は後側方から椎間孔を経由してアプローチします。

 

ヘルニアの摘出

2)ヘルニア手術の変遷進歩について

Love法から始まり、顕微鏡を導入し特殊な開創器を用いたcaspar法、顕微鏡を使用し円筒レトラクターを使用したMD法、内視鏡を使用し円筒レトラクターを用いたMED法へと進歩し、さらに侵入を変えて後側方から椎間孔を経由してアプローチするPELD法へと変遷してきました。

 

Love法
1939年Loveにより開発された後方経路の術式である。5〜10cmの皮膚切開

Caspar法、MicroLove法
顕微鏡を使用し、Caspar開創器を使用して小切開(3cm)でLove法と同じ手術を行う。

MD法(Microscopic Discectomy)法
顕微鏡を使用し、後方経路で筋肉を縦に裂いて円筒形のレトラクター(METRxシステム)を設置し、Love法と同じ手術を行う。1.8cmの皮膚切開

MED法(Micro-Endoscopic Discectomy)
内視鏡を使用し、円筒形のレトラクター(METRxシステムなど)の中でやはりLove法と同じ手術を行う。1.6と1.8cmの皮膚切開。

PELD法(Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy)
Love法と異なる後側方からアプローチし、椎間孔を経由して直接ヘルニアへ到達し、最小の外套管を介して内視鏡下にヘルニアを摘出する。7mmの皮膚切開。

 

注意 ヘルニア手術の皮膚切開の変遷

 

ヘルニアの摘出

 

Love手術

Love手術

○後方からアプローチ
○5〜10cmの皮膚切開
○筋肉を外側へ剥離
○椎弓間を開窓
○神経組織を内側へ引く
○ヘルニア膨隆を確認
○靭帯を切開
○ヘルニアを摘出

 

Caspar法

Caspar法

○後方からアプローチ
○3cmの皮膚切開
○Casparの開窓器を使用
○Love法と同じ手技を行う

 

MD(Microscopic Discectomy)法
MED(Micro-Endoscopic Discectomy)法

MD法

○後方からアプローチ
○皮膚切開はMD:1.8cm MED:1.6、1.8cm
○円筒レトラクター
○Love法と同じ手技を行う

 

PELD法(Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy)

PELD法

○後側方からアプローチ
○皮膚切開は0.7cm
○椎間孔を経由
○直接ヘルニアに到達(骨、神経組織を操作せず)
○ヘルニアの側方から摘出

 

3)手術に対する考え方

とび出したヘルニアを摘出する、例えると座布団の破れた所から飛び出した綿を抜き、さらに脱出準備状態にある座布団の内部でちぎれて浮いた綿も抜き取るものです。
たくさん抜きすぎると座布団がせんべい布団になりクッション性能が悪くなり、また外力に対して弱くなり、術後の変性(劣化)が早く進みます。これはその後の腰痛の原因となります。

一方、飛びだした部分だけを抜くと、内部にある浮いた綿が再び出てきて再発の原因になります。このさじ加減が難しい訳です。

固定術を併用する場合もあります。椎間板が片減りして側方に滑っていたり、すべりがあったりして椎間の不安定性があり、その程度が強くてヘルニアを摘っても良い成績が期待できない場合です。
固定するとしばらくは良いのですが、上下隣接の椎間板に過度の負担がかかるため、将来その椎間でのトラブルが起こりやすいことが問題です。

ヘルニアでの固定は最終選択です。
私の経験ではヘルニアで固定が必要となることは稀で、多少不安定性があってもヘルニアを摘るだけでうまく行く事が多いようです。
多少の不安定性は固定しないで、術後に体幹支持性を高めるリハビリで補います。

4)固定手術が必要な場合

 

不安定性を伴う場合

椎間板変性が強く不安定性(すべり、側弯、局所後弯などを伴う)を伴い、主治医が摘出だけでは良好な結果が得られないと判断する場合。

重篤な神経障害性疼痛を伴う場合

ヘルニアは軽度にもかかわらず、痛みは過敏性を帯びて重篤。
下肢知覚過敏や異常知覚を伴う、触れると痛い、ジンジンなど嫌な痛みを伴う。このような病態で重篤であると主治医が判断する場合。

 

ヘルニア手術治療 Q&A

質問1.ヘルニアの手術をしましたが下肢の痛みがスッキリとれません。
どうしてですか?

お答え答え.一般的には成績不良に関連する因子として、異常な心理状態、労災関連、他疾患の罹患、高齢者があげられ、一方画像の明瞭な異常所見、神経脱落症状、SLRテストの陽性、過去の少ない入院歴、罹病期間の短さが良好な成績に関連していたと報告されています。 それ以外に私の考えを述べてみます。手術は良好に行われたとした上でお話しします。

当該椎間板の支持性、椎間の安定性が低下している

椎間板変性が強く手術高位にすべりや局所の後弯や側弯が存在する場合、ある程度の不安定性は術後の症状に影響しませんが、その程度が強い場合は固定手術が必要となります。
また手術時に椎間板組織摘出量が多くなった場合も支持力の低下が起こりますが、止むを得ず摘出量が多くなる場合があります。

神経障害性疼痛の病態が併発している

ヘルニアが小さいのに痛みが強く改善傾向がない。下肢にビリビリする過敏な痛みがあり、筋力低下や知覚障害、異常知覚が障害神経根領域を超えて広範囲に現れます。この場合は手術で原因病巣を除去することが必要ですが、重篤例では固定しないと成績が出ないことがあります。

膨隆軽度で脱出力の低いヘルニア

中等度の腰痛が長期に改善せず就労不能から脱出できない例があります。腰痛の原因はヘルニアが脱出しようとする内圧によるものと、椎間板自体の変性によるものの両方の要素が関与すると思われます。ヘルニア摘出の手術をすると改善しますが良好とはいきません。

移行椎がありヘルニア椎間に過剰な負荷がかかる

移行椎がある場合、最下位椎間板に過剰な負荷がかかることが想定されます。いわば構造上の弱点がある場合です。この椎間には椎間板変性が早期に進行し、またヘルニアも起こりやすい。手術を行っても負荷が過剰にかかるため、痛みが残りやすいようです。術後腰椎支持性を目的にリハビリが必要となります。

微妙にヘルニアの再発傾向がある場合

手術時に椎間板内の遊離椎間板組織は摘出しますが、それでも早期再発は避けられないことがあります。初めは診断がつきにくいのですが、次第に正体を現します。再摘出が必要になる場合があります。

当該椎間に脊柱管狭窄を伴う場合

ヘルニアを摘出しても脊柱管が狭いと神経根の圧迫が完全に解除されていないことがあります。

他椎間に痛みの病巣がある場合

他椎間に狭窄や不安定性、嚢腫など痛みの原因となる病態がある場合です。

質問2.大きく脱出してヘルニアが流れた場合激痛が出ます。退縮してその後改善することが期待できますが、手術した方が良いのでしょうか?

ヘルニア

お答え答え.腰痛や下肢痛が治らず長引いた場合、保存治療と手術治療を比較すると4年までは手術治療の方が成績が良いがそれ以降は成績に差がないとされていますが、今回は重篤な流れたヘルニアの場合について考えてみます。

ヘルニアの症状の項でも述べましたように、靭帯を破り大きく脱出したヘルニアはその程度が強いほど早期の退縮が予想され疼痛改善が期待されます。その期間は早ければ1ヶ月です。

労務復帰は保存治療の場合、順調に回復すれば1ヶ月で軽作業可能となる場合はがあります。一方すぐ手術すれば2〜3週間で軽作業可能です。しかし両者とも復帰後は腰への負担は制限されますが保存治療の方がこの制限は緩いかもしれません。
手術手技に関しては、流れたヘルニアは出血も多く、癒着も強く手術がしにくい場合があります。

椎間板への影響については、どちらも椎間板の変性が進行しますが、手術した場合の方が椎間板変性のリスクが高く、将来腰痛をきたす場合がやや多いかもしれません。
本格的な神経障害性疼痛を伴う場合はヘルニアは退縮しても痛みが残りやすく痛みの過敏性(触れるとビリビリなど)が出現します。いつまでたっても良くならず、むしろ次第に過敏性が増悪し難治となります。早めの手術が必要です。
狭窄を伴う場合は保存治療では改善しにくい場合があります。
下垂足など神経障害が重篤な場合は早期の手術が必要です。
狭窄や、神経麻痺や神経障害性疼痛(やや重篤)がなければ保存的治療をお勧めします。

注意 狭窄症、神経麻痺、重篤な神経障害性疼痛がなければ
保存的治療をお勧めします!

 

質問3.病院ではヘルニアはごく軽度と言われますが、下肢の痛みしびれが強く触れるとビリビリし、次第に増強しています。薬もほとんど効きません。
歩くことや立つこと、座ることも非常に困難です。

お答え答え.ヘルニアが痛みの発生源としてお話しします。

神経障害性疼痛の症状が強く出ているものと思います。ヘルニアによる神経根の圧迫は軽いにも関わらず痛みは過敏性を帯びて重篤です。知覚過敏や異常知覚(触るとビリビリ、熱いなど)が出現し、その範囲も当該神経根の支配領域を中心にそれを超えて広範囲に出現します。
体質的要素があり、脊柱管特に外側が狭い病態の関与もあるようです。このような病状は難治で次第に増強してくることが多く、痛みの中枢性感作(痛みの増幅や変形)が重篤にならないうちに固定手術を含め原因病巣を摘出する必要があります。

 

 

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